大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)178号 決定

第一七八号事件控告人 吉本興産株式会社

第一八〇号・第一八一号事件抗告人 張善 金乗哲

第一八六号事件抗告人 大松商事株式会社

主文

原決定はいずれもこれを取り消す。

本件競落はいずれもこれを許さない。

抗告人大松商事株式会社の抗告はこれを却下する。

昭和四九年(ラ)第一七八号事件の抗告費用は抗告人吉本興産株式会社の、同第一八〇号、同第一八一号事件の抗告費用は抗告人張善、同金乗哲の、同第一八六号事件の抗告費用は抗告人大松商事株式会社の、負担とする。

理由

一、各抗告人の抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。なお、抗告人大松商事株式会社は抗告理由については抗告状に追つて提出する旨記載しながら未だにこれを提出しない。

二、当裁判所の判断

(一)  抗告人吉本興産株式会社の抗告理由について。

不動産競売の競売期日の公告に「不動産の表示」が要求される趣旨は、競売手続を進行するため競売の目的たる不動産を特定しその同一性を明らかにする必要のあること、競買希望者に不動産の種類・面積等その実情を知らせて他の公告事項と相まつてその実質的価値を知らせ、以てできるだけ多数の競買希望者の参加を得て競売申立人、債務者その他利害関係人の利益を保護しようとすることの二点に存するものと解すべきである。したがつて、登記簿上の表示と不動産の実況とが著しく相違し、その同一性を認識し得ず、かつ、その実質的価値を了知させ得ない場合には、登記簿上の表示のみを公告することによつては右公告の目的を達することができず、その公告の「不動産の表示」は競売法第二九条で準用される民事訴訟法第六五八条第一号の要求する「不動産の表示」とは言えず、右公告は違法となるが、登記簿上の表示と不動産の実況との相違が右の程度に至らない場合には公告は有効と解すべきである。抗告人吉本興産株式会社は、公告では本件建物は階下が一四四・六二平方メートルと表示されているが、実測したところ一二四・六二平方メートルしかない、と主張するところ、仮に右主張の事実が認められたとしても、右の程度の相違は、未だ不動産の同一性を認識し得ず、かつ、その実質的価値を了知し得ない程度に著しいものとは言えないから、本件競売手続における競売期日の公告は違法ではない。

したがつて、同抗告人の抗告の理由は主張自体失当である。

(二)  抗告人張善、同金乗哲の抗告理由について。

競売裁判所は、競売手続が開始された以上、債権者からの競売申立の取下や、民事訴訟法第五五〇条所定の書類が競売裁判所に提出されない限り、その手続を続行すべきものであるから、たとえ債権者と債務者との間に抗告人張善、同金乗哲主張の如き約定が成立したとしても、それだけでは原決定を何ら違法ならしめるものではない。

したがつて、同抗告人らの抗告の理由も主張自体失当である。

(三)  抗告人大松商事株式会社の抗告について。

不動産競落許可決定に対する即時抗告は、民事訴訟法第四一五条により一週間の不変期間内にこれをなすことを要し、右期間は抗告権が該言渡期日に欠席したと否とに拘らず該決定の言渡の日より始まるものと解すべきところ、記録によれば、本件不動産競落許可決定の言渡の日は昭和四九年六月一八日であり、本件即時抗告の提起の日は、同日から一週間を経過した後である同年同月二七日であることが認められる。

したがつて、抗告人大松商事株式会社の本件抗告は抗告期間経過後の提起にかかるもので不適法であるから、却下を免れない。

(四)  職権調査

職権をもつて案ずるに、記録によれば、別紙物件目録(一)記載の物件については、競売価額申出の催告がなされたのは昭和四九年六月一二日午前一〇時であり、競売終局の告知がなされたのは同日午前一〇時三〇分であることが認められ、その間には競売法第三〇条で準用される民事訴訟法第六六五条第二項所定の満一時間の経過がない。したがつて、右手続違背は、競売法第三二条第二項に準用される民事訴訟法第六七二条第七号、第六八一条第二項により、抗告の理由となる。別紙物件目録(一)記載の物件の競落許可決定は、この点において違法であり、取消を免れない。

ところで、記録によれば、昭和四九年五月八日付の「競売及び競落期日公告」には、特別売却条件として別紙物件目録(一)及び(二)記載の物件は一括して競落すべき旨公告されているにも拘らず、右物件は個別に競落されていることが認められる。

右の如く一括して競落すべき物件が各別に競落され、しかもその一部の物件について手続上の瑕疵がある場合においては、一部の物件についてのみ競落許可決定を取り消すにとどめることは一括競売の可能性を封ずることとなるので、当該物件についてのみ競落許可決定を取り消すべきではなく、一括して競落されるべき全物件について競落許可決定を取り消すべきである。

(五)  結論

以上の次第であるから、原決定はいずれもこれを取り消し、本件競落はいずれもこれを許さないこととし、抗告費用は各抗告事件につき当該抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 柴山利彦 弓削孟 篠田省二)

別紙 物権目録(一)(二)〈省略〉

(別紙)抗告の趣旨及び理由

第一、抗告人吉本興産株式会社

抗告趣旨

一、原決定は之を取消す

一、債権者の申立を棄却する

抗告理由

一、本件競売の目的物件は別紙目録(二)の通りで抗告人はこれを代金壱千万円也で買受ける旨申し出て前記の通り競落許可決定がなされた。

二、ところが昭和四九年六月一九日抗告人方従業員が右現場を検分したところ、建物が二〇・〇〇平方米不足しておりこれは競売物件の表示と異り抗告人に於てはその損害は多大であるから本件競落許可決定は不当である。依而本件不動産競落許可決定は取消され度く、又、御庁に於いて現場御調査の上再競売に付され度く本抗告に及んだ次第である。

第二、抗告人張善、同金乗哲

抗告の趣旨

原判決を取消し更に相当の裁判を求める

抗告の理由

一、債務者たる抗告人張並びに物件所有者たる抗告人金は昭和四九年六月一〇日本件競売事件の債権者たる末原トミ子との間に於て本件競売に係る債務金の弁済について話合い、当事者間に於て後記約定が成立した

(一) 債務者張は債権者末原に対し金四百六拾八万五千弐百四拾五円也の支払義務あることを認め昭和四九年六月末日限り金弐百万円也昭和四九年七月末日限り金弐百六拾八万五千二百四拾五円也を支払う

(一) 債権者は右支払完了期日である昭和四九年七月三〇日に至る迄本件競売手続について延期手続をなすこと

(一) 物件所有者金は債務者と連帯して前記債務者の支払金、全額についてその責を負うこと

(一) 債権者は債務者が右支払を完了したるときは本件競売手続はこれを取下げること

(一) 債務者等に於て右弁済金の支払を一回にても遅滞したるときは本件競売手続を債権者に於て進行されるも異議なきこと

二、右約定に基き債権者は本件競売期日の延期手続をなすべき義務があるところこれをなさず本件競売が実施され前記競落人に於てこれが競落をなし且つ昭和四九年六月一八日右競落許可決定がなされたものである

三、右の如く本件競売手続はその執行を続行すべからざる理由があつたにかかわらず債権者の一方的責に帰すべき理由により実施されたものであるから民事訴訟法第六七二条第一項の競落許可についての異議理由に該当するものであると思料すると共にこのまま本件競売手続が続行されたるときは債務者並びに物件所有者は回復し難い損失を蒙るので抗告の趣旨記載の如き御裁判ありたく茲に抗告いたします

第三、抗告人大松商事株式会社

抗告の趣旨

原決定を取消す。

本件競落は之を許さない。

との御裁判を求める。

抗告の理由

一、追つて書面にて提出します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例